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作家であり、職人であり。

島津薩摩切子の復元作業から始まって、今や第一人者として人気の高い中根櫻龜さん。同じ武蔵野美術大学出身ということもあり、鹿児島の校友会をきっかけにお会いしてからおそらく20年は経過していると思われます。
この夏の日本橋三越本店での個展に向けて、ディレクションとデザインを担当させていただきました。

「作品集」とはまた違い、「美術工芸品図録」としての魅せ方は撮影の仕方からして違ってきます。変に小賢しいことをせず、作品そのものをそのままに、美しく編集しなければいけません。
「花ちゃん的にはもうちょっとデザインしたいところなんでしょうけどねー(笑)」という突っ込みに、思わず「こういう直球勝負のデザインこそ、難しくて頑張りがいがあるのですよー」という言葉が出ました。普通に見えるものこそが難しい。

特に写真はストレートに。
ただそれだけのことが実はいちばん難しいことで、しかも光と透明感と色被せの薩摩切子となると、撮影の力量あっての図録なのです。
この点において、薩摩ガラス工芸の方が早々に指名されていたカメラマンさんは、ほんとうに素晴らしい方でした。
ついでに書き加えるならば、私が駆け出しのヒヨッコの頃から大御所の方でもありまして、「これはもう大船に乗っての船出。わたしはとにかく丁寧に素直にデザインをすればよい」と、安堵のため息から始まった今回のプロジェクトでした。

ページ構成や作品背景余白の指示、角度、位置など、後で文字を入れる際に変なトリミングにならないよう、抜かりなく注意深く進行を作ります。
大作ばかりなので、作品の完成の区切りごとに3度に分けて撮影。
そのワンシャッターのどれもが美しくて、モニターの前に現れる度に、アートマネージャー様と「美人〜!」と叫びつつ「あと少し半時計回りですねー」「ここのカットの光を出してくださーい」など抜かりのない現場でした。
最後の作品の「はい、オッケーでーす!」の声には、「あぁ、撮影終わっちゃった…」と、ちょっぴり寂しくもありました。

広報のために先に撮影したデータから、続々とツールを作ります。
先行するDMから任せていただけたので、作る側としてはインクの色や紙質から計画を立てられ、世界観がまとめられるのはありがたいことでした。

カバーをかけたい気持ちと予算のせめぎ合いの後、質感のある紙に墨一色の艶なし銀箔押しで納得の着地。
最初にお話を頂いてから、おおむね1年の美しい時の積み重ねでした。

薩摩切子作家 中根櫻龜展
—水の記—
2018年 7月18日(水)~24日(火)
日本橋三越本店 美術特選画廊
〒103-8001 東京都中央区日本橋室町1-4-1
午前10時~午後7時 ※最終日は午後5時閉場
展覧会情報の中からデジタルカタログもご覧頂けます。

タイトルとなっている〈水の記〉。
「流れ行く大きな時の中で、人間である私たちが出来ることって、ほんとうに小さくて一瞬だよね」。
打ち合わせの帰りしな、駐車場での立ち話の中でぽろっと耳に留まった中根さんの言葉。
ただひたすらに細やかに、美しく連なる薩摩切子のカットを思い返しながら、私もその一筋を担えるようなデザインの職人でありたいと思うのでした。