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微力たる人間たちは…。

早朝4:30の目覚ましの音で動き出す撮影隊。現場のすぐ近くで深夜から密かにキャンプして、真っ暗な道をゴトゴトと現場へと走ってゆく。
天気予報では台風19号の接近が繰り返し叫ばれていたけれど、「いい天気」イコール「晴れ」ではないので…いやむしろ、台風前後の空がドラマティックに変化する事を知っている私は、「まさかロケの設定日が台風の直前になるなんて、これは幸運かもしれない」と思ったほど。

空の色が変わり、台風の影響でどんどん姿を変えながら沸き上がってくる雲。
遠くの雄大な山肌からは、蒸気が生き物のように駆け上がり、巨大な雲に吸い込まれてゆく。

もののけ姫の夜明けのシーン。
神の時間と人間の時間が入れ替わる様子が、目の前のパノラマで繰り広げられてゆく。

虫の声にヒグラシが混ざりはじめ、やがて遠くから小鳥のさえずりが重なってきた。
動かなくなるような厚い雲に覆われたかと思えば、強い風に千切られた雲の隙間から、まだ昇りきらない太陽の光が思わぬ雲に光を当ててくれる。

朝日を狙う撮影の場合、ピークは一度、ほんの一瞬だけということが多い。
でも今回は台風が次々と表情を変えてくるので、「よし、終わったね」と誰からともなく声が上がるまで、一時間近くも動くことが出来なかった。

その後は場所を変えながらの撮影が続き、強烈な朝日、大粒の天気雨、雄大な虹…。めまぐるしく天気が変わってゆく。

正午前。撮影ラストの田んぼでは肌を刺す日射しにもなり、「短い時間でいろんな演出をしてあげたからね。自然にはかなわないでしょう…?」と、台風からにやり、見せつけられたような気分でした。

畦の脇の草むらには、なんと自生のギボウシを発見。
派手な葉っぱの園芸種と違い、濃い緑の小さめの葉からすっと伸びた茎が凛々しく、開く花に刷毛で描いたような色は、いままで目にしたどのギボウシよりも美しいのでした。

はてさて、微力たる人間たちは、この姿をどう伝えればいいのでしょう。
とりあえず仕事として追わせていただいたからには、謙虚にていねいに、自然の僕となるべし。