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そっと祈りをこめて

なんとも言えない春を過ごしながら、私はというと、ありがたいことに色々なお仕事を進めさせていただいています。

本来、仕事が重なれば重なるほど一人で引きこもらざるを得ない職種ですから、作業に関しては大きな支障は来しません。
職住一体で、田舎暮らしの庭付き。
こういう非常時にめっぽう強いことも、安心感を感じることも、実証することができました。
(実証なんてしたくはありませんでしたが…)

さて、もう長いこと仕事を引き受けさせていただいている「らさら」さんの新茶のお知らせも、無事に印刷を終えてお渡しすることが出来ました。
今頃あちこちに、新茶のお試しパックと一緒に届いている頃かと思います。

今まででしたら「新茶まつり」であったり、おすすめのギフトセットのことをたくさん掲載したり、うきうき陽気な気分でデザインをしていたのです。

ところが、今回は最初の打ち合わせの時点から「ふわっと優しい雰囲気にしたい。商品のこともほとんど載せなくていいです」という、思い切ったご依頼を頂いていました。

その時点では、このCovid-19の事態がここまで長引き、大きく世界を揺るがすとは思いもせずに…。

私たちが無意識にやっている日常の、あたりまえのこと。
美味しいお茶を入れる瞬間の湯気の香り。
思いを伝える時にそっと包むという、さりげない行為。

思い浮かべながら写真に収めてゆきました。
メンバーで道具を持ち寄って支度をし、スタッフの方に何度もお茶をお注いでもらったり。

撮影が終わった「冷やしぜんざい」や「あんみつ」を仲良く分けっこして「おいし〜!」と笑い合ったり。

最後のページは近くの大きな川沿いへ出かけて、夕暮れの景色を何枚も切り取りました。
お散歩をしている方とすれ違い、ベランダで洗濯物を取り込む様子を見上げ、遠くには路面電車や車の走る音…。
とどまることなく流れる川面に、飛び交う鳥たち。

私たちが暮らしている日常の、穏やかで、なんと美しいこと。

原稿や素材を揃え、編集しながら日を追うごとに、状況が変化してきます。
添える言葉にぎりぎりまで悩みました。

受け取る方の状況は、みな、それぞれに違います。

どうか穏やかな時間を感じていただけますように…。

今回はとても柔らかでふわっとした紙(インクが沈んで発色がとても悪くなります)を選び、印刷をかけました。
静かな縁の下の力持ち、印刷現場の方にとっては、この新茶の色を出すことはとても難儀なことだったと思います。こともなげに出してくださって…感謝しかありません。

「らさら」のスタッフ、私たち製作チーム、全員が言葉には出しませんでしたが、そっと祈りながらのお仕事でした。